従来、その実体が不明瞭であった、固着地衣類ヘリトリゴケ科(Lecideaceae)及びその周辺の分類群の日本における種類相を明からにする事を主たる目的とした。 その方法として、(1)日本産の当該の分類群について、全ての既報告種をMacintosh版ファイルメーカーを用いてデータ・ベースを作成した。(2)各分類群に関するモノグラフ的研究の論文も前者と同様にデータ・ベース化した。この際、扱われている種(シノニムを含む)・顕著な分類形質・地理的分布も入力して、検索するための情報量を豊富にした。927件の論文を収録した。(3)日本各地で採集された標本と、京都大学・国立科学博物館・ヘルシンキ大学・ウプサラ大学等、国内外の研究機関に所蔵されている範型・基準標本を比較検討した。(4)比較検討をする際には、殆ど全ての標本について地衣成分(地衣類特有の有機物で系統分類を行う上で良い形質と考えられている)の同定を薄層クロマトグラフィーを用いて行った。また、光学顕微鏡観察によって子器内部の構造、特に果殻の菌糸組織及び子嚢の構造に重点をおいて研究を進めた。 本研究で、広義のヘリトリゴケ属(Lecidea)の元に従来日本から報告された分類群に中心に再検討を加えた結果、11日本新産種を含む46属189種4変種を認めた。この内、12種については属の位置を移動する見解を新たに提唱し、また5種を新たにシノニムとした。大半の種がこれまで只一度日本産として報告されたもので、従来日本の研究者にも実体がつかめ得なかったものである。
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