本年度の研究は、昨年度に引き続き北海道地域での採取調査を中心に行ってきた。稚内から南の日本海沿岸地域で、何種類もの裸鰓類が採取されてきたが、そのうち未記載種と考えられる標本も何点か得ることができた。これらの属位の決定については、目下比較解剖の作業を進めているところである。 さまざまな発育段階にある形質を比較する試みを行なった。孵化から浮遊幼生を含む初期発育形質についての分類学的有効性を検討したものである。現在のところ、ごく近縁な3種の間で確かめられただけであるが、幼生期の形質も近縁種の区別には非常に有効であることが示された。幼体にまで育つとそれらの形質は完全に消失してしまい、成体だけが持つ形質へと変化することも判明したが、その発生学的意義はまだわかっていない。これらと成体の生殖器系を中心とする分類形質で行なわれる系統関係との相関についての検討は、まだ始まったばかりの状態にある。 一部の種グループについては、体地色や体表に見られる色彩の濃淡や模様パターンの変化についても詳しい検討が行われた。種内変異の幅の中に含まれる例としては、中腸腺の色合いを中心とした体内の色のバリエーションで、これらは主として発育過程で食べていた餌生物の種類によって決定づけられることがわかった。一方、種レベルで安定した形質としては体表の色彩パターンが代表的なもので、これらについては食性の影響を受けることはほとんどないことなどがわかった。
|