本研究は各地の博物館に保存されている骨格標本や毛皮標本を形態学的に詳細に検討比較すると共に、皮革標本の一部の供与を受けDNAを抽出しミトコンドリアの一部の塩基配列を決定比較することを目的とした。 まず、ライデン博物館に保管されているヤマイヌの毛皮標本と形態試料を入手することが出来た。ニホンオオカミについても大英博物館、北海道大学農学部附属博物館、和歌山大学教育学部、国立科学博物館のものを入手し、さらに石川県立七尾高校と愛媛県立博物館にも標本のあることが新たに判明した。後二者の資料は今回初めて明らかになったもので資料収集の面では当初予期した以上の成果を上げることが出来た。現在までに収集した資料はニホンオオカミ、エゾオオカミ、タイリクオオカミ、イヌの資料は、毛皮試料がそれぞれ、3点、3点、2点、1点で、計測資料それぞれ、10点、2点、16点、10点にのぼった。 計測資料を多変量解析法の一種である正準相関分析法により検討したところ、タイリクオオカミとエゾオオカミがよく似ていること、イヌがそれらの近くに位置し、ニホンオオカミが離れたところに位置することが分かった。さらにヤマイヌとされているライデン博物館の3点の標本の内、b標本を除くaとc標本がニホンオオカミではなく、イヌではないかとの疑いが出てきた。 毛皮を出発試料としたPCR法によりミトコンドリアのチトクロームb遺伝子を増幅し、直接塩基配列を決定することを試みた。最初約360塩基対の増幅では一試料を除き増幅できなかった。タンパク質のアミノ基が求核試薬として還元糖のカルボニル基を攻撃してシッフ塩基を経由してアマドリ転移生成物にいたるメイラード反応が試料の保存中に起こっている可能性があるが、DNAがさらに断片化している可能性も考えられるので、PCR法のプライマーを合成し直して現在増幅を試みている。
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