日本の自然環境下において、地理的隔離なしに種分化が進行中であるニホントガリシダハバチHemitaxonus japonicus complexを研究対象として、同所性種分化の機構解明を試み、以下の成果を得た。1.本種の分布南限近くの北緯34度付近の南北約10kmの狭い帯状地帯において、寄主転換をともなってジュウモンジシダ生態種からイノデ生態種が同所的に分化している。2.両生態種の雌成虫はそれぞれの寄主植物のみ産卵するが、F1雌は両植物に産卵可能で、特に旧寄主であるジュウモンジシダを強く選択する。寄主選択は1遺伝子支配による分断選択と考えられる。3.寄主選択に関与する産卵誘因物質は両生態種で異なり、活性成分は共に揮発性で、その沸点は100-150℃/1mmHgの範囲にあることが判明したが、単離・同定には至っていない。4.イノデ新生態種幼虫の旧寄主植物への不食化現象は、雌成虫が新しい寄主植物に産卵を続けることによって生じる条件付け効果によることを明らかにした。5.旧生態種がら新生態種への遺伝子流入を阻止し、新生態種の遺伝的独立性を保障する選択交尾現象を発見した。性フェロモンがこれに関与していると考えるが、特定できていない。6.染色体および酵素蛋白は、生態種間で顕著な違いはみられない。高度反復配列DNAは種特異性が強く、近縁種間においても相同性は極めて低いが、ニホントガリシダハバチの2生態種間で、pYSファミリーのマイナ-バンドにみられる20bpの鎖長の違いは、生態種形成に果たすDNA変異の役割に手掛かりを与える可能性を示唆した。7.同胞種シシガシラハバチH.sasayansisの形態、生態、遺伝、分布などの形質を調査した結果、本種はニホントガリシダハバチから寄主転換を伴って同所的に種分化し、現在分布域の大部分で時間的に棲み分けた状態にあることを明らかにした。
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