表現型進化と分子進化とのかかわりを探ることを目的として、眼に退化させたモグラやミミズを含む食虫類を実験材料として、眼という器官の分子的きそとなるクリスタリン遺伝子とロドプシン遺伝子をクローニングして塩基配列を決定し、これら分子の進化速度を推定する実験を行っている。 モグラの眼のレンズタンパク質の主要成分であるαAクリスタリン遺伝子は、眼の退化にともなって偽遺伝子化している可能性が強く示唆される結果が得られた。この遺伝子の進化速度を定量的に推定するためにモグラの遺伝子ライブラリーを作製してクローニングを行った。制限酵素による切断パターンの異なる、少なくとも三種類の独立なクローンが得られているので、この遺伝子領域が遺伝子重複を行っていることがわかる。現在、これら遺伝子クローンの構造解析を行い、塩基配列の決定を行う準備をしている。 ロドプシン遺伝子は、PCR法による遺伝子増幅によって第四エクソン部分をクローニングすることができた。この塩基配列を決定したところ、(1)5カ所以上の塩基部分で欠失が見られ、(2)エクソン-イントロン境界領域の共通塩基配列であるAGGTに反するAGTGに塩基置換を起こしていること、(3)光受容に本質的な役割を果たすレチナールと結合するアミノ酸のリジンがアルギニンに変わっていることがわかり、モグラのロドプシンが光受容タンパク質としての役割を果たしていないことを強く示唆するデータが得られた。
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