研究概要 |
本年度は既存の培養株からの精子の人工的誘導を試みた.これまでに淡水産珪藻Thalassiosira lacustrisで誘導に成功した。この試料を直ちに常法に従い固定・包理し,連続切片を作り,電子顕微鏡で観察した.精子細胞の固定が非常に良好であったため,鞭毛装置構造に関して以下のような新知見が得られた.【.encircled1.】鞭毛基部の微小管は,ほとんどの鞭毛細胞に見られるような3連管構造ではなく,2連管構造であった.【.encircled2.】鞭毛基部から細胞後方に向かって放射状に伸びる複数の微小管束があり,そのいくつかの微小管束は核の外膜に沿って走っている.【.encircled3.】鞭毛基部下部には,隣接する2連管の間に9個の電子密度の高い板状構造がある.【.encircled4.】近縁の藻群に見られるような鞭毛根が全く見られない. これらの知見は近縁藻群の鞭毛細胞と比較し,珪藻の精子細胞の鞭毛構造がかなり特異的であることが示唆している.そして,これで他の黄色植物の鞭毛装置との比較が可能となり,本研究の目的とする珪藻植物の系統を解析する上で大きな手がかりが得られた.また,新たに確立された培養株においても,精子誘導の予備実験に成功しており,上述の新知見が他の種類の珪藻精子でも共通したものかどうかを確かめる見通しが得られている.今後さらに多くの種類の培養株の確立と,多くの種類での人工的精子誘導を試み,複数種での鞭毛装置構造の解明ができるなら,珪藻精子細胞の特殊性と共通性が明らかになり,黄色植物中での珪藻の位置づけを考える大きな手がかりとなると思われる。
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