本年度は以下の3点を研究目標として研究を進めた。(1)新たな珪藻の培養株の確立とそれらの株からの精子の人工誘導を試み、得られた精子を固定し、定法に従って電子顕微鏡観察を行う。(2)昨年度中の研究で精子の人工的誘導と固定に成功したThalassiosira lacustrisについては、その細胞構造の一層の解析に努める。(3)電子顕微鏡観察で得られた結果に基づき、他の黄色植物の藻類と比較し、系統的解析を行う。 (1)については、汽水産のMelosira moniliformisと淡水産のActinocyclus sp.で培養株の確立に成功し、精子の人工誘導に成功した。しかし、Melosira moniliformisでは、固定状態が悪く電子顕微鏡観察を行ったが、解析可能なデータが得られなかった。Actinocyclus sp.では、電子顕微鏡観察に十分なだけの精子の量が得られず、固定に至らなかった。 (2)については、一層の観察を進め、昨年得られた結果を補強することができた。また、いくつかの新たな知見を得た。特に、核を取り囲むように鞭毛基部から後方に伸びる微小管の束のいくつかは、核膜に近接して存在する小毛形成小胞を半分だけ囲むように配置してことが明らかになった。 (3)については、現在解析を進行中であるが、これまでの結果から珪藻の精子の鞭毛構造は、近縁の他の藻類群には見られないような特異なものであることが明確となり、黄色植物の中でもやや特異な系統的位置を占めることを示唆する結果となった。
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