固有背筋は複雑な形態を示すため従来その形態と機能的意義との関連が充分には分析されていなかった。しかしながら、直立二足性に向かう進化過程で体幹部の姿勢・運動様式の大幅な変更が起こっている以上、その機能転換に伴う形態変化が生じているはずで、ヒトを含む分類群である霊長類についてその機能形態学的分析が待たれていた。この問題について、肉眼解剖学、組織学、運動学の諸側面からの検討を加えることを計画した。 固有背筋の肉眼解剖学的構造に対する運動様式の反映を検討するために、本年度は特に地上性の移動様式との相関を知るためにパタスモンキーとマントヒヒの記載に重点を置いた。また樹上性霊長類としてテナガザルについても同様の肉眼解剖学的記載を試みた。従来までに蓄積してきた所見とも照合すると、樹上性霊長類では最長筋が弱いことがわかった。このことは、生活場所の差異が固有背筋形態に反映することを示す。また、同じ地上性の移動様式を特徴とするパタスモンキーとマントヒヒを比較すると、筋配置の点からは類似しており、特に胸腰移行部における最長筋の発達など共通点が多いが、両者の間でもより高度に地上性の運動様式に適用したパタスモンキーでは、骨構造の改変による筋の効率化がはかられていることも明らかになった。 次に、固有背筋群を構成する個々の筋の機能的役割を知るための一助として筋の組織標本から筋紡錘数を定量することを試みた。本年度は、チンパンジー、クモザル、ニホンザル、マーモセット、スローロリスの後頭下筋群を含む頚部固有背筋の筋紡錘数を定量した。分析の結果、筋紡錘数はマーモセットで多く、スローロリスで最小であった。このことは固有背筋による頭部運動の特徴と関連づけることができ、種特異的な傾向が認められた。 運動学的検討については、既存の三次元運動解析システムによる体幹運動分析の方法の確立と実験動物の調教を行った。
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