人類の適応や進化を研究する場合、成体の比較だけではなく、成長過程を明らかにすることは重要である。しかし成長研究は、欧米や日本が中心で、人類の変異の研究に欠かせない伝統社会については、人々の年齢がはっきりしない(生年月日が不明)ために、ほとんど行われていない。 これまでパプアニューギニアの諸部族を対象にして実施した人類生態学的調査のデータに基づいて、生年月日不明の伝統社会における成長研究の妥当性の検討を行った。主な内容は以下のとおりである。 1)伝統社会においては、生年月日は不明でも、村人全員の出生順位は良く記憶されている。このような情報からある程度、年齢推定を行なうことが可能であり、成長曲線を推定することができる。そこで、ビアミ(Biami)族の調査データを用いて、村人全員の出生順位から年齢を推定して成長曲線を推定した。 2)一定間隔(通常は1年間)で2回の測定値を得ることにより、対象者の多くが年齢不詳であっても、また対象者数が少ない場合でも、ロジスチック式による集団の平均成長曲線を求め得る方法を見いだした。 3)ギデラ族の調査では2回の測定を行なうことができたので、このロジスチック式による成長曲線の推定を試みた。 4)住民の生年月日が明らかなマヌス地域においては、生年月日の問題はないが、集団のサイズが小さくて十分なデータを得るのが難しいという問題は残る。1994年のマヌス調査のデータを用いて、成長研究の妥当性を検討した。
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