研究初年度である平成5年度においては、単一および二重障壁系におけるフォノンのダイナミカルな振る舞いを考察した。つまりフォノン光学素子の動作時間と密接に関係したフォノンの透過時間を主に数値的に調べ、透過および反射の際に生じる時間の進みと遅れを明らかにした。具体的に対象としたのはGaAsとAlAsを構成要素とする半導体周期超格子からなる系であり、この系におけるフォノンのBragg反射に伴って出現する周波数禁止帯(フォノン・ストップバンド)中にある周波数域に着目した。周期超格子はこの周波数域内にあるフォノンに対しては障壁として作用する。つまり超格子内ではフォノンの波数(運動量)は虚数となり運動量が実数とならないため、このような領域をフォノンが通過するのに要する時間は、とりわけ興味深い対象である。本研究では周期超格子系における透過率、および反射率に対して我々が既に導いた解析的表式を基に、フォノン波束の透過、反射に伴う時間の遅れや進みを数値的に解析した。その結果 (1)単一障壁系では透過波に時間の進み、反射波に時間の遅れが生じること。 (2)二重障壁系では多重反射の効果として共鳴周波数において、透過、反射波束で共に大きな時間の遅れが生じることが明らかとなった。現在、以上の物理的理由の解明を目指して、解析的計算を実行中である。
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