研究概要 |
ガリウムヒソ(GaAs)をSi基板の上に成長すると、格子定数と熱膨張係数の差により歪が発生し、それが発光素子の寿命を著しく短くする。この問題解決のため、本研究者はUCGAS構造 を提案し、既に3000時間を越える寿命を持つ発光素子を実現してきた。この構造においては、薄いダブルヘテロ構造が、上面を金属電極に、下面を空気によって挟まれているので、光子は上下面で反射を受け、活性層で再吸収され光子として再放出される(光子再利用効果)。本研究は、この光子再利用効果の確認とそのレーザへの応用を目的として行われた。シリコン上発光素子と光子再利用効果についてそれぞれ研究を行った。 シリコン上発光素子については、外部応力により転位を動かせるという研究を行い、これに初めて成功した。これは現在の転位密度が10^5cm^<-2>台まで下がっていること、この値が通常のデバイス寸法より大きい30μmに一個の転位に相当すること、を考えると重要な意味を持つ。すなわち、GaAs on Si 技術の応用に当たっての問題点は、もはや転位密度ではなく、むしろその位置であるということである。転位の位置が制御できれば、無転位部にデバイスを作製できる。今回成功したこの実験は、転位の位置制御を可能とするもので、いわば転位操作と呼ぶことができる。 また、光子再利用効果をさらに大きく発現させるための構造作製を行なった。まず、成長メカニズムの理論的検討から開始し、部分的に球面状にエッチングしたシリコン基板上にMOCVD成長を行った。直径5μm 以下の穴の中にGaAs の選択成長を行い、成長条件により成長後の表面を平らにしたり、ある程度の極率を持たせることができた。しかし、完全な球面は得られておらず、光の散乱損を受けることから、今後さらなる検討が必要である。 以上の研究成果は、単に光子再利用への応用に限らずGaAs,Si 混在型光 IC 作製などの基盤技術の一つとなりうるものと考えている。
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