酸化物ガラスの構造を構成するイオンは、網目構造を形成する網目イオン(Net-Work-Former;NWF)と、網目を切断してその間隙に位置する網目修飾イオン(Net-WorkModifier;NWM)に大別できる。NWMとしては、Li^+やK^+のようなアルカリ金属イオンが代表であり、NWMの構造が種々の輸送現象の基礎となっている。NWMの性質は、その実用的な重要さのために、現在までに間接的な物性測定から多くの研究が報告されている。しかしながら、これらとは対照的にNWMの構造に関する研究は殆どなされておらない。従って、平成5年度では、ラボラトリー軟X線XAFS分光法によりK_2O-SiO_2系ガラス中のK^+イオンの局所構造、およびLi_2O-SiO_2系ガラスの構造をラマン分光やX線回折による測定ならびに分子動力計算により調べた。その結果以下のようなことが明かとなった。 軟X線XAFS分光法によるK_2O-SiO_2系ガラス中のK吸収端XAFSスペクトルの解析から、K_2O・2SiO_2ガラスやK_2O・3SiO_2ガラス中のK^+イオンは、平均して4〜5個の酸素イオンに取り囲まれていることが判明した。これは、SiO_2へのK_2O添加によって導入される過剰の酸素イオンにより、SiO_4四面体網目構造の破壊と非架橋酸素イオンの形成を示している。 Li_2O-SiO_2ガラスは双ローラーを用いた超急冷法により41.3≦Li_2O≦61.3mol%の組成領域でガラス化試料を得ることができた。上述したラマン散乱測定、X線回析測定、および分子動力学計算により、Li_2O-SiO_2系ガラス中でLi^+イオンは結晶とは異なり、平均して2〜3個の酸素イオンに取り囲まれていることが判明した。 現在、これらの構造情報を基にしてアルカリ珪酸塩ガラスの物性を考察し、さらにガラス化領域の広いPbO-SiO_2系ガラスを用いたブリュアン散乱測定、さらには目下推進中のリン酸塩の相変態研究を発展させリン酸塩ガラスについても研究を行う予定である。
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