本研究は、イオン性度の大きく違うヘテロエピタキシャル成長において、その成長界面に中間的イオン性度を有する材料をイオン性度制御層として導入し、良好な結晶成長を実現することを目的とし、具体的にはCaF_2/Si(111)上にGaAsを成長させる系でGaAs-CaF_2界面にII-VI族のZnSeを制御層として導入することで実験を行った。 まず、上記のイオン性度制御層の実験の第一段階として、CaF_2(111)表面上へのZnSe層の成長条件の最適化を行った。ZnSe化合物ソースを用いたMBE法で基本的には成長温度350℃の条件でx線ロッキングカーブの半値幅が最小となることを示した。最終的には非常に薄い薄層状態で界面に導入することを考慮し、平坦かつ高い被覆性と結晶性を兼ね備えた層を形成する必要があり、低温堆積とポストアニールを組み合わせる方法について検討を加えた。 この知見を基に、実際にZnSe上にGaAsを2段階成長法でMBE成長し、その結晶性を評価しながら最適なZnSe層の成長条件を調べた。その結果、厚さ1〜5nmのZnSeを200℃で堆積後その場で300〜350℃でアニールする方法により最も良好なGaAs層の成長を得た。GaAs層の結晶性をX線ロッキングカーブの半値幅で評価すると、この方法による成長層の半値幅は、CaF_2上にGaAsを直接成長した場合に比較して1/2以下に低減し、少なくとも本系におけるイオン性度制御層の導入効果を確かめることができた。GaAs層の結晶性がZnSe層の導入によって向上した原因の現象的な解析をAFM観察で行ったところ、成長の2次元化は必ずしも達成できていないが、島状成長初期の核形成密度がZnSe表面で増大し、GaAsの成長の進行に伴って欠陥の抑制が効果的に行われるという理解を得た。
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