本研究は、真空中電子の波動現象を電子デバイスに応用するための基礎研究として、化合物半導体を用いた平面型冷陰極およびそこから放出された電子の波動性の観測を行うための微細電極形成技術に関する研究を行った。 化合物半導体を用いた冷陰極としては、InPデルタドーピング構造および、GaInAs/GaInP/InPヘテロバリア構造の二種類の構造を有機金属気相成長法により作製し、ヘテロバテリア構造において、4vまで再現性よく電圧がかかるようになった。現在再現性をなくす原因は熱と推定され、今後バリアにアルミニウム砒素を使い電流量を下げれば、10v程度までの再現性良好な素子ができると考えられる。電子放出を促進するため素子表面に蒸着する低仕事関数材料としてはセシウム、ランタノイド、バリウム等を試みたが、現時点では真空への電子放出は確認されていない。これは、蒸着時の膜厚制御を行えなかったためと考えられ、今後この膜厚測定を行いながらの蒸着で十分可能になると考えられる。 また、また真空中での電子波干渉現象の観測の基礎として、極微細金属電極構造作製に関する研究を行った。電子ビーム蒸着、電子線ビーム露光、リアクティブイオンエッチング技術を組み合わせて、PMMA/Ge/PMMA多層レジスト構造を可能にし、今までより微細な周期でのリフトオフを可能にした。その結果、電子線ビーム露光装置の限界に近い50nm周期のAu/Cr極微細電極をInP上に形成することができた。また、この微細構造形成技術を結晶成長の前後で行うことをタングステンマークを用いることで可能にし、ヘテロ極微細構造と極微細電極構造の重ね合わせを可能にした。
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