固体表面に吸着した分子の光化学反応における光過程と熱過程を分離測定するために、我々は低温の基板上での反応を行い、その中間体を高感度反射赤外分光(IRAS)およびX線光電子分光(XPS)を用いて検出・同定するとともに、光生成物の熱的挙動を熱脱離スペクトル法によって観察する手法を用いている。これまで、銀を基板とするペンタ鉄カルボニルの表面光化学反応を研究してきたが、本年度はSiO_2薄膜上の同反応を研究した。IRASは本来、金属表面のみに有効であり、絶縁体表面では感度がないと考えられてきたが、金属上に200nm程度の絶縁体薄膜をのせる方法(ベリッドメタル法)によって金属と同程度の感度が得られることがわかったのでこれを適用した。その結果、単分子層以下の吸着ペンタ鉄カルボニルを十分に検出できた。光分解の初期中間体が、基板表面から多層吸着層までFe(CO)_4であること、この中間体は光にたいして安定であること、低温では重合体を生成することがわかった。重合体はFe_3(CO)_<12>の可能性があるがIRASがブロードであるために特定はできなかった。重合体は光分解しないが約200Kから熱分解をはじめ、400Kでは完全に分解して表面に鉄を析出する。析出した鉄は銀表面と異なり、COの吸着に活性であることがわかった。銀表面に吸着したペンタ鉄カルボニルの光分解についても若干の継続実験を行い、収率の波長および吸着量依存を測定した。その結果、気相の鉄カルボニルは300nmよりも長波長側にほとんど吸収がないが、銀表面に吸着した鉄カルボニルの光脱カルボニル収率が320nmで極大を示すことを見出した。銀の表面プラズモンの影響と考えられるが、さらに検討中である。
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