本研究では低温の固体表面に吸着したペンタ鉄カルボニルの紫外光による分解反応のメカニズムを種々の表面分光法によって調べるととに、表面の物理・化学的性質が反応に及ぼす影響を研究している。これまでに、銀およびSiO_2を基板として用い、高感度反射赤外分光(IRAS)、X線光電子分光(XPS)、昇温脱離スペクトル(TDS)法などによって反応中間体と反応過程を研究してきたが、その中で銀表面上における分解収率の波長依存性が、気相ペンタ鉄カルボニルの吸収スペクトルとは異なり、320nm付近に極大を示すことが見出された。本年度は、この波長依存性を金(111)単結晶表面の反応との比較で研究した。その結果、銀表面、320nm付近のペンタ鉄カルボニルの分解は表面近傍でのみ起こることが見出され、銀の表面プラズモン励起(3.88eV【similar or equal】320nm)による分解と推定された。一方、金表面上でも300nmより長波長側で無視できないほどのペンタ鉄カルボニルの分解が起こることが見出されたが、表面プラズモン励起(500nm付近)では分解が起こらないことがわかった。金の場合、長波長側の分解は吸着による吸収スペクトルの赤方遷移と考えられ、これは銀についても起こると考えられる。したがって、銀表面上、320nm付近の分解収率の極大は、表面プラズモン励起のみによるものではなく、吸収の赤方遷移との複合効果によると結論された。また、光分解生成物の平均組成は照射光の波長によらずFe(CO)であり、IRASの観測により低温では重合体となっていると考えられる。
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