研究概要 |
1.薄膜レンズによる球面収差補正特性の測定 前年度に設計・製作した薄膜レンズを透過電子顕微鏡(TEM)対物レンズに組み込み,薄膜レンズ電圧に対する球面収差の変化を測定した.試料として酸化マグネシウム(MgO)結晶を用い,透過電子による明視野像と回折電子による暗視野像のずれから球面収差を測定した.その結果,薄膜レンズ電圧の増加にともなって球面収差が減少し,600Vで最小となった後,800Vにおいて負の値に転じた.このことから,600〜800Vの間で球面収差が補正されたものと考えられる.しかし,MgOは電子線照射損傷を受け易いため,高倍率観察では暗視野像が消失して,補正電圧付近で微小な球面収差を精度よく測定することはできなかった. 2.高倍率観察による球面収差補正の検証 電子線照射に強い金微粒子を試料とし,薄膜レンズを用いて補正電圧付近でTEM観察を行った.高倍率においては,試料支持膜の非晶質カーボン薄膜の位相コントラストから正焦点を高い精度で実現できるため,球面収差の測定誤差の最大の要因である焦点ずれを最低限に抑えることができる.観察の結果,薄膜レンズ電圧615Vにおいて明視野像と暗視野像のずれが見られなくなり,ほぼ完全に球面収差補正が達成されていることが分かった. 3.光回折装置を用いた球面収差係数の測定 上記の明視野・暗視野像を用いる方法は有効であるが,ある特定の回折角に対する球面収差を測定するので,どの程度の角度範囲で補正が達成されているかは明らかでない.そこで,前年度に構築した光回折装置を用いてカーボン薄膜のTEM像のパワースペクトルをとり,その極大,極小値の現れる空間周波数から球面収差係数を測定した.この値は前年度に備品として購入したパーソナルコンピュータを用いて,最大エントロピー法により精度よく求められることが分った.
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