研究概要 |
本研究は2か年計画で行われるもので,今年度はその初年度に当たる。本研究の研究目的は,超音波パルスの異常散乱のメカニズムを解明することであるが,今年度の研究は主として超音波のクリーピング現象の理論的根拠を明らかにすることを主眼として行われた。この現象は,超音波を物体に照射すると,あたかも物体の裏側を半周して戻ってくるかのように振る舞う異常な反射波が観測される現象であり,研究開始当初はその定式化は不可能と思っていたが,文献調査により,この定式化にはSommerfeld-Watoson変換が有効であることを知った。爾後,もっぱら理論の導出に没頭し,ついにそれに成功した。 以上で開発された理論を確かめるために,独自に考案した方法で数値実験を行った。今回の数値実験は,純粋なクリーピング波(Franz type)を得るために,散乱物体を弾性振動を伴わない剛体円柱および剛体球とし,これに平面波超音波を入射した場合について行った。その結果,クリーピング波の速度や減衰率は周波数と密接に関連しており,前記の理論とよく一致することがわかった。 さらにこの研究を通じて,いわゆる近距離場(送波器自体の回折効果の影響が無視できない複雑な領域)におけるクリーピング波を表現する式を発見した。これは筆者がすでに独自に開発したHasegawaの回折積分を応用したものである。 以上のように,今年度の研究は順調に進捗している。むしろ予期以上の成果を得ることができたと思われる。今年度の設備備品費で購入したスペクトラムアナライザは,予備実験において,入射波および散乱波の周波数成分の測定に用いられ,十分にその性能を発揮した。
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