50nm〜1000nm厚のMgO薄膜試料についてスクラッチ損傷を与える実験を行った。MgOは薄い膜でも破壊が脆性的であり、また膜構造のわずかな違いにも摩擦力の変化として現れやすい材料である。仕事関数も低く、電子放出材料として注目されている。MgO試料は、高周波スパッタ装置で酸素とアルゴンの混合気体の雰囲気でMgOターゲットをスパッタし、基板に+100〜-100Vのバイアスをかけた中で成長させた。純Arの環境でスパッタすると膜には10GPaに達する圧縮性の内部応力を生じるが、酸素の混合量を増すことにより内部応力は減る。また、基板のバイアスは負のバイアスによって著しく大きな応力となり、厚さが増えると自己破壊して粉々になって剥がれる。+20〜0Vで、最もち密で密着性のよい膜が得られた。上記膜厚で良質のMgO膜は、先端径〜15mum程度の半球状ダイヤモンド圧子で押し込みスクラッチすると、損傷が目視できない段階においてスパイク状の摩擦力の変化とともに電子放出が観測される。次の段階としては、まだ膜は壊れることなく基板との界面で剥離を生じるようになる。基板の塑性限界あるいは膜の内部応力の大小に依存するが、剥離した界面部に隙間ができる。さらに荷重を増すと、膜自体の破壊をともなって目に見えるような損傷を生じる。MgO膜は通常の金属膜と異なり、酸素の導入や紫外光の照射がなくてもスクラッチにともなってエキソ電子の放出が観測されるのが特徴である。目下、実験試料としてMgOのみを扱い、より多くのエミッションを安定して計測できる条件を、試料作製と計測回路の両方の立場から調べている。また、スクラッチ初期における摩擦力の不規則性と電子放出に関連があるのか調べている。
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