マグネトロンスパッタリングによって作製した200nm厚のMgO膜を、X線光電子分光装置(PHI1600型)に導入し、1253.6eVの特性X線を照射して放出される光電子のエネルギースペクトルを測定した。試料にイオンエッチングを加えた場合には、入射X線より高いエネルギーのエキソ電子が検出された。装置に導入された試料は表面の汚れを除くために約20秒のイオンエッチングが施された。その後10^<-8>Pa台の真空中で室温で48時間放置された。この試料にエネルギー3KeV、電流密度15mA/cm^2のArイオンが30秒、1分、2分と照射された。 エキソ電子は、試料に20分間X線を照射する間に出現した。その後10分間の休止期間をおいて、再びX線を照射して放出される電子を観測した。エネルギー範囲1154〜1554eVの電子スペクトルの取得には13秒を要し、15秒毎に繰り返し走査された。 イオン照射が行われた試料からは、通常のMgO膜から観測される光電子スペクトルに加えて、エネルギーの全域に渡る放出電子が検出された。放出特性が特徴的な点は次のようである。(1)このエキソ電子はX線照射の2回目と3回目に、照射直後から発生し、時間とともに少くなり100秒程度でほとんどゼロになる。(2)はじめに照射したイオン量が多い程、エキソ電子の量は多くなる。(3)イオン照射しない試料からはエキソ電子は放出されない。(4)MgO膜の作製条件によっても放出量は変わる。 スパッタエッチングされたMgO膜表面で不安定な位置に固定された原子が高エネルギーの光子を照射され、電子の再配置を伴う過程で誘導放出されている可能性がある。
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