研究概要 |
一般に微小な物体においては,その体積に対する表面積の割合が大きくなり,原子・分子の存在の影響を無視できなくなる.当研究者の一人は,最近連続体力学における境界条件としてこれまで無視されていた物体表面あるいは異種材料との界面における表面応力(過剰自由エネルギ=表面エネルギ)を新たに導入した,一般的な境界条件式を導出した.この関係式は,分子・原子のミクロな領域からマクロな領域の平衡条件への拡張と見なすことができる.この関係式は,表面あるいは界面の曲率および表面に局在する物体力(ファンデルワールス力等),表面エネルギの変動(場所的,時間的)による力,さらには表面の加速度を含んだ非線形な関係式であるために,有限要素法あるいは境界要素法などの数値計算法で解析を行うことが必要となる.本年度は,これらの式を用いてナノスケール構造物の基礎的な応力解析を行った.ここでは,軸対称三次元接触応力解析を行った.上述した関係式は非線形なものであるために,これを線形化し,弾性解析における境界条件に用いた.解析の結果は,本研究で新たに導入した弾性キャピラリ数と呼ぶ無次元パラメータで整理できることを示した.弾性キャピラリ数は,弾性係数と膜厚のせきに対する表面応力の比であり,この値が大きくなると表面応力が応力解析の結果に大きい影響を与える.硬い弾性体の上にコーディングされた柔らかい弾性体に他の弾性圧子を押し込む解析を行った.その結果,表面応力を考慮すると見かけ上は押し込み量に対する押し込み荷重が大きくなることがわかった.すなわち,ナノメータサイズの薄膜にナノインデンテーションにより硬度を測定すると,非常に高い値がでてくることがわかった.しかし,薄膜の応力解析を行うと,薄膜の弾性係数を小さくした場合に上述のことがでてくることもわかった.これらのことが実験で薄膜の硬度を推定する場合に生じているならば,結果の解釈に大いなる矛盾を生じてくる.したがって,表面応力を考慮した解析を数値解析で行うことにより初めて,これらの点に対して明確な解釈を与えられると考える.
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