研究概要 |
本研究は,転位の動力学による破壊現象の説明を主たる目的とするものである.本年度においては,昨年度までに構築した転位動力学モデルを用いて疲労破壊における微小き裂の問題を転位動力学の観点から取扱い,疲労破壊機構の解明を試みた.具体的には,疲労破壊における疲労き裂進展速度は,き裂先端開口変位に比例すると言われていることを鑑み,転位源としてのき裂先端から放出された転位がき裂面から傾斜したすべり面上を運動し結晶粒界に堆積する動力学シミュレーションを行うことによって,き裂先端開口変位の経時変化やこれに及ぼすすべり面角度の影響を求めた.その結果, (1)すべり面の角度が70〜80゚の場合にき裂先端開口変位が最大となり,また隣接する結晶粒に生じる応力も最大となることが解った. (2)このことから,疲労き裂はすべり面角度70〜80゚で最も容易に進展するものと考えられる. なる結論を得た. さらに,転位の動力学モデルの応用として,金属材料の耐磨耗性等の改善を目的として行われている表面改質を取り上げ,表面硬化層に堆積する転位の動力学シミュレーションを行った.具体的には,表面硬化層と母材からなる2相モデルと,これらの間に摩擦応力分布を有する領域を想定した3相モデルを用いて,表面硬化層に生じる応力と母材の結晶粒径の関係を求めた.その結果,いずれのモデルにおいても表面改質層の破壊が生じる限界の作用応力と結晶粒径の間にはHall-Petch型の直線関係が成り立つことを明らかにした.
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