本研究は、超精密切削加工を始め各種の精密加工用の工具材料として用いられているダイヤモンドの損耗機構を明らかにし、その制御と共に最近注目されている薄膜を含む合成および天然のダイヤモンド加工への応用を試みるもので、主要な研究成果は次の通りである。 1.真空度と温度の広範な条件下で、切削中のダイヤモンド工具の損耗を模擬するダイヤモンドと被削材金属との接触加熱モデル実験を行った。その結果、鉄と接触するダイヤモンドは723K以上の温度ではダイヤモンドの鉄中への拡散と鉄の触媒作用によるダイヤモンドの酸化の両方によって損耗し、それ以下では拡散が生じず、いわゆるレドックス機構にもとづく酸化のみによって損耗することが明らかになった。 2.同一条件下での接触加熱実験結果から、合成ダイヤモンドは天然ダイヤモンドに比べて熱化学的な損耗量が大きいことが明らかになった。これは原石中に内在する欠陥の形態と量に基づくと考えられるが、詳細についてはまだ明らかになっていない。 3.熱力学的な解析によって、ダイヤモンドと各種の金属との反応が生じる可能性を知る手法を確立した。しかし、この手法では反応速度や活性化エネルギ等の情報は得られないため、接触相手材料による損耗速度の違いを知ることは全くできないという欠点がある。 4.局所密度汎関数法用いた第一原理計算によってダイヤモンドの熱化学的損耗機構を解析する計算プログラムを開発した。解析結果から酸素原子が吸着離脱するときにダイヤモンド表面炭素原子が一酸化炭素となって取り去られる可能性があることが明らかになった。
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