本年度はマイクロトボロジーの観点から、分子動力学法を用いて、滑っている物体の重心運動の減速割合から動摩擦力を求めるとともに、弾性変形接触の条件で摩擦界面のポテンシャル関数の形状や荷重、環境温度などが動摩擦力の発現や接触面での温度上昇にどのように影響するかを調べた。用いる界面の原子間ポテンシャルは、斥力のみのソフトコアポテンシャルを仮定し、α-鉄の(110)面を接触面とする摩擦モデルについて検討した結果、動摩擦係数が、ポテンシャルのコア半径や環境温度に依存することを定量的に明らかにした。 次に、接触面同士が弾性変形だけでなく、塑性変形や微小破壊による転位なども介在するような外力の条件のもとでの摩擦、摩耗現象を議論するために、経験的なモースの2体間ポテンシャルを固体内の電子雲を埋め込むエネルギーも考慮したembedded-atom-methodを拡張して適用した。 分子動力学法のプログラムの開発は、エンジニアリングワークステーションを用いて行った。しかし、信頼性のある解を得るためには、できるだけ大きな系(5000程度の原子数)で長時間(10000ステップ以上)の計算が必要となるために、N1ネットで接続されている東大大型計算機センターのスーパーコンピュータを使用した。また、設備備品として購入したグラフィック専用のワークステイションを用いて、時々刻々の原子の動きを視覚的にとらえることにも成功した。 当初に計画した研究目的、平成5年度の研究計画・方法はおおむね達成されている。ただし、EAM(原子埋込み法)については、プログラミングの妥当性に関してさらに検討を要する。次年度もEAMのマイクロトライボロジーへの導入を継続して行う。 研究成果の一部は、1994年度精密工学会春季大会学述講演会で「ナノ切削機構の基礎研究(第1報)-計算機モデルと一二の結果」と題して発表した。
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