これまで、潜水夫減圧症に関する安全基準としては、浅深度および短時間潜水を基礎条件とする「減圧表」が、各国で作られ、適用されてきた。近年、海底資源開発、海底パイプライン施工技術開発、海中居住空間施設建設など多様な海洋開発に関連して、大深度海中作業に対応する高度な潜水技術が要求されている。いまや数100mに及ぶ深海および長時間潜水の時代へと移行しつつあるが、その最大の障害は、労務作業時の安全性と密接に関係する潜水病の対策と克服である。潜水病とは、海中の高圧環境から地上の低圧環境にもどる際に、生体中の発泡現象によって発症するものと定性的に理解されているが、その力学的機構についてはほとんど検討されていない。本研究では、生体中の気泡生成に関する流体力学的解明を目的として、大深度の海中環境条件をモデル化した高圧容器制御システムを主測定部とする加減圧型液中気泡発生装置を用いて、各減圧条件下における気泡数密度、気泡発生の閾値などを明らかにした。その結果、減圧度が大きくなると共に、気泡発生が容易となり、直径0.2〜0.3mm程度の気泡が多数生じ、また気泡の合体も観察された。血液中では、水中に比べて、気泡は発生しやすく、生成気泡数も多いことが明らかとなった。生成した気泡直径は、細動静脈径に比べて1オーダ以上大きいことから、生成気泡による血流停止・遅滞を招くことが予測された。液体の流速を可変し、初生キャビテーション係数とレイノルズ数との関係を実験的に求めた。その結果、血液中においては、初生キャビテーション係数は水道水に比して約10%低下し、またそのときのレイノルズ数は水の場合の約1/3となることが明らかになった。
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