大動脈内血液流れは、単一の正弦曲線とは異なった高調波成分を有する複雑な周期的流れである。この大動脈においては循環障害が発生し易く、その解明は社会的にも最重要課題となっており、大動脈内血液流れに対する流体力学的アプローチが強く求められている。そこで本研究では、大動脈弓をモデル化した管内において生理学的流量波形で変動する脈動流れを取り上げて流動特性を明らかにし、これらを生体医工学や生理学の分野に広く供することを目的としている。 本年度(初年度)は、生理学的流量波形を有する流れが曲がり部に流入した場合(次年度)と比較するために、正弦状振動流れと脈動流れの曲がり入口付近(助走流れ)について可視化およびレーザドップラー流速計による速度測定を行った。振動流れに関する速度測定の結果から曲がり入口付近における速度分布について、次のような基礎的知見を得た。 1.速度分布はウォマスリィ数によって異なる複雑な形状を示して管軸方向に推移する。 2.低・中ウォマスリィ数の流れでは、管軸方向の流れを一周期にわたってみたとき、曲がり部入口付近において曲がり角の方向に前進する流れと直管部へ後進する流れからなる定常的な流れが形成される。 3.曲がり管部および直管部において速度分布が位相によらず管軸方向に変化しなくなる曲がり開始点からの助走長さは、ウォマスリィ数を増すにつれて短くなり、高ウォマスリィ数では曲がり開始点付近でそれぞれ発達した流れとなる。さらに助走長さは、同じディーン数を有する定常流のそれよりも短い。
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