大動脈内血液流れは、単一の正弦曲線とは異なった高調波成分を有する複雑な周期的流れである。この大動脈においては循環障害が発生し易く、その解明は社会的にも最重要課題となっており、大動脈内血液流れに対する流体力学的アプローチが強く求められている。そこで本研究では、まず最も基本的にモデル化した正弦状振動流れ、次いで動脈流れの曲がり入口付近(助走流れ)について、可視化およびLDV流速計による速度測定を行った。その結果、速度分布に関して次のような基礎的知見を得た。 (振動流れについて)速度分布はウォマスリィ数αによって異なる複雑な形状を示して管軸方向に推移する。また、低・中α数の流れでは、管軸方向の流れを一周期にわたってみたとき、曲がり部入口付近において定常的な流れが形成される。曲がり管部および直管部において速度分布が位相によらず管軸方向に変化しなくなる曲がり開始点からの助走長さは、α数を増すにつれて短くなり、高α数では曲がり開始点付近でそれぞれ発達した流れとなる。 (動脈流れについて)速度分布は曲がりの転向角Ω=15〜35°付近で大きく変化し、管軸に沿う流れの発達過程は中程度のα数(α=10)の流れが最も複雑である。最小流量時の逆流は、曲がり部流入後(Ω≧15°)内側断面で生じる。また速度分布のくぼみ現象は、加速中期中α数のΩ=90°下流の曲がり部で出現する。脈動流の助走長さは中α数の流れが最も長いが、断面平均流速の最大値を有する定常流のそれより短い。
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