本年度は前年度に引き続き伝熱面と合体泡間に形成されるマクロ液膜厚さを、熱収支の式q_<CHF>=ρ_IH_<fg>δ_I・f(q_<CHF>:限界熱流束、δ_I:マクロ液膜の平均厚さ、f:合体泡離脱頻度)に基づいて垂直から下向き伝熱面の限界熱流束点で決定するとともに、伝熱面への液進入を防ぐ伝熱面を用いて遷移沸騰域の液膜厚さを決定した。本研究によって新たに得られた知見は以下の通りである。 1.大気圧の水とエタノールについて伝熱面の向きを変えて限界熱流束を低下させて得られたマクロ液膜厚さは、既存の核沸騰高熱流束域での導電プローブによる測定結果よりかなり薄く、本研究で提案した式と良く一致した。このことから、厚さが数10μm程度と薄く気液界面が激しく変動しているマクロ液膜を導電プローブで直接測定する既存の方法は、精度の点で問題があることが分かった。 2.従来より、水平伝熱面を用いた実験では遷移沸騰域において周囲から伝熱面への液進入のあるこが指摘されており、このことが遷移沸騰伝熱特性を複雑にしていた。そこで、液進入を防ぐために伝熱面を垂直にし前面にガラス板を設置した伝熱面を採用した。高速ビデオによる観察と導電プローブによる伝熱面周囲の気液の状況から、本実験で採用した伝熱面体系は液進入を完全に防ぐことが分かった。この伝熱面を用いて大気圧の水とエタノールについて測定された液膜厚さは、液膜形成時の熱流束が核沸騰曲線の延長で与えられると仮定すると本研究で提案した式で整理できた。また、従来の遷移沸騰曲線が大きく散乱する主要因は、伝熱面上への周囲からの液進入であることが確認できた。 3.以上、前年度の結果も考慮すると核沸騰高熱流束域から遷移沸騰域にかけて沸騰伝熱機構には差がなく、マクロ液膜厚さは本研究で提案した式によって表すことができる。
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