一般に、高熱流束域の核沸騰では蒸気塊の底部と伝熱面の間にマクロ液膜が存在することが知られている。これまで塩類水溶液の核沸騰では、液膜の消耗による不揮発性成分の濃縮がこの液膜内で起こり、伝熱抵抗の増加や腐食の促進が懸念されている。また、局所的に液膜が乾くドライアウトの発生により、核沸騰熱伝達に限界が生じることが観測されている。このため液膜の生成条件とその内部における濃縮過程を明らかにすることは不揮発性成分を含む二成分系溶液の沸騰熱伝達を系統的に予測するうえで重要である。そこで本研究は、リチウム系塩類水溶液を対象として、大気圧、飽和状態でのプール沸騰実験をおこない、低熱流束から高熱流束までの核沸騰域での沸騰特性曲線と沸騰様相の変化を把握したうえで、液膜形勢の詳細な機構を実験的・理論的に明らかにし次の知見を得た。 (1)高熱流束域(合体気泡領域)での沸騰特性曲線は、熱流束の増加に対して過熱度の増加割合が急増する。 (2)蒸気塊底部のマクロ液膜は、熱流束のマイナス二乗に比例してその厚さが小さくなる。 (3)気泡通過頻度と熱流束の関係から遷移域における蒸気塊の生成機構を明らかにした。 (4)マクロ液膜厚さおよび消耗液膜厚さと熱流束の関係からこれら相互の関係を明らかにした。 (5)高熱流束域における蒸気塊の切断周期は熱流束の1/5乗に比例する。 (6)一次気泡径と発生頻度には相関があり、両者の積で表せる特性値は蒸気換算速度に一致した。 (7)気泡の縦方向の干渉割合は、水に比べて水溶液では小さく干渉しにくい。 (8)濃度の増加と共に極大熱流束が低下する要因は、伝熱面上の気泡付着面積が増大するからである。
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