柔軟宇宙構造物の振動制御問題においては、モデル化やその低次元化において無視されたモードに起因する不安定、すなわちスピルオーバ不安定の問題が大きな問題となっている。この問題に対しては、すでに多くの手法が提案されているが、代表的な手法の一つにH∞制御理論の応用がある。これは近年注目されているロバスト制御理論であるが、ロバスト安定性を重視しており、制御性能が保守的になる面があった。宇宙環境のような厳しい環境においては、安定性のみならず制御性能のロバスト性が極めて重要であり、そのような制御系の設計の必要性が指摘されている。 本研究は、ロバスト制御性能を有する最新のmu-制御器設計法を柔軟構造物の振動制御問題に適用し、ロバスト安定性のみならずロバスト制御性能を有する制御系設計法を確立することを主な目的とした。具体的には3次元のトラス構造物の実験モデルを製作し、その2箇所にリニアモータで駆動されるプルーフマス型制振器を設置した。この実験モデルに対する制御器の設計をmu-アナリシスとmu-シンセシスによって行い、そ手法の有効性を実験的に検証した。 制御器設計においては、まずH∞出力フィードバック制御手法を用い、各アクチュエータ位置における低次元化モデル化誤差をそれぞれ包絡するような周波数成形を行って、スピルオーバに対するロバスト安定性を確保しつつ、出力の低感度を図る混合感度問題として定式化し、これを基にしてD-Kイテレーションによってmu制御器を設計した。数値計算と制御実験を行い、周波数応答とインパルス応答を調べた結果、mu制御器は高いロバスト性能を有することが確認され、その有効性が明かにされた。
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