本研究は、オールフィルムタイプ電力用コンデンサの高性能化・小型化および長期信頼性の向上に対する基本的指針を得ることを目的として、高分子絶縁フィルムが絶縁破壊直前に示す局所発熱現象をサーモグラフにより観測し、フィルムに内在する絶縁欠陥の性質を解明するとともに、これらの絶縁欠陥とも関連においてフィルムの絶縁破壊機構、高電界電気伝導機構を明らかにする事を目的としている。今年度に得られた主な結果を以下に示す。 1.代表的高分子であるポリエチレンフィルムに直流電圧を印加した場合において、絶縁破壊直前に局所発熱現象が観測され、その部分で絶縁破壊が発生した。このことより熱破壊の発生が考えられ、サーモグラフによりフィルの絶縁欠陥の非破壊的検出が可能であることがわかった。 2.交流電圧印加の下では、局所発熱はほとんど観測されないが、絶縁破壊の強さが直流より低く周囲への熱放散の状況により変化することから、直流同様に熱破壊過程の関与が考えられた。 3.高分子フィルムの酸化や熱処理により局所発熱が増大することから、それらが絶縁欠陥に関与していることがわかった。 4.架橋剤分解残渣を電極界面に塗布することにより、局所発熱が増大し、絶縁欠陥の検出が容易になった。架橋剤分解残渣は電荷注入を促進し、過度的空間電荷制限電動を引き起こすことがわかった。 5.ポリプロピレンフィルム等の比較的に硬いフィルムにおいては局所発熱は観測されにくい。また、絶縁油への含浸は室温では絶縁破壊に大きな影響を与ぼさないことがわかった。 6.高分子フィルムの絶縁欠陥が関与する絶縁破壊機構として、熱破壊と電気機械的破壊機構の複合破壊過程が重要であることがわかった。
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