水素にはシリコン基板上のフッ素を除去する作用があり、基板前処理やフッ化物原料を用いた気相成長など半導体プロセスにおいて重要な反応系であるが、その素過程には不明な点が多い。本年度は、先ずフッ素吸着シリコン基板に原子状水素を照射し、オージェ電子分光分析法により残留フッ素密度の処理時間依存性を調べることにより反応カイネティクスを検討した。ここで原子状水素はタングステン熱フィラメントにより生成しており、有する運動エネルギーは0.2eV以下である。原子状水素照射開始直後は2次反応が支配的であり、フッ素被覆率の減少とともに1次反応が支配的になる。それらの2次、1次反応の活性化エネルギーとして0.56eV、0.4eVが得られた。また、基板清浄化のための完全なフッ素除去には水素供給量よりも基板温度の方が重要であることがわかった。この方法により200℃程度の低基板温度で水素被覆表面ができると推定されるが、これを熱刺激脱離分析法により確認中である。一方、水素還元タングステン気相成長において、遠隔プラズマによる水素ラジカルを供給することによりシリコン酸化膜上にも低温でタングステン膜が形成できることが明らかになった。この現象は原子状水素が基板表面に供給されることにより、酸化膜からの酸素引きおよび原料のフッ化タングステンからのフッ素引き抜き反応が促進されたためと考えられる。
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