本研究では、熱や遠隔プラズマ等により励起した低エネルギー水素をシリコン系半導体基板上へ照射した場合の表面化学反応過程や表面電子構造への影響を調べている。 まず、フッ素処理による自然酸化膜除去時に形成されるフッ素吸着シリコン基板に対し、原子状水素または重水素を照射すると、200℃程度の低基板温度でフッ素が除去されることがオージェ電子分光分析法により確認された。この表面構造を熱刺激脱離分析法により調べたところ、安定な水素被覆表面が形成されていることがわかり、本プロセスがシリコン低温清浄化法として有用なことが示された。フッ素除去過程における反応生成物として、反応初期においてはSiD2F2が、徐々にSiDFが多く生成されることを明らかにした。この結果は、我々の提案したフッ素脱離に関して2次反応から1次反応へ移行すると考える反応モデルで説明することができた。 遠隔プラズマ励起水素によるタングステン気相成長において、原子状水素の供給量を増加させると、反応次数が変化すること、低温においても基板の種類に対して非選択成長を示すようになること、形成膜の導電率が増加することが明らかになった。これらの結果は、原子状水素の基板表面への供給により、原料のフッ化タングステンからのフッ素引き抜き反応が促進されたためと考えられた。 不純物を含まない多結晶シリコン膜を水素パッシベーションした場合に観測される抵抗率の上昇の原因について検討した。バンド伝導成分と粒界に沿ったホッピング伝導成分の2つの電流成分を考慮した電気伝導モデルを提案し、水素化による抵抗率やその活性化エネルギーの変化の傾向を説明した。
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