酸化物人工格子膜作製として、金属ターゲットの交互反応性スパッタリング法を確立するため鉄ターゲットを用い、鉄薄膜の酸化過程の検討を行った。アルゴン及び酸素による反応性スパッタを行い、X線吸収微細構造(XAFS)測定のXANES領域により鉄酸化物薄膜の前駆体の構造を明らかにした。これにより、次のような結果を得た。酸素分圧4mTorrのときスピネルフェライトFe_3O_4およびγ-Fe_2O_3を主成分とし、10mTorrのときα-Fe_2O_3を主成分とするとする酸化膜が形成された。すなわち低酸素分圧下で4面体と8面体の酸素多面体が混在し、酸素分圧が大きくなると8面体が主となる酸化物が、比較的短距離な秩序を構成している状態であることが判明した。また、従来のバルクのFe_3O_4には見られない1桁大きな磁気抵抗効果(3%)を示し、抵抗率もバルクに比べ4桁も大きなすぐれた磁気抵抗効果材料であることをことを発見した。この膜の構造解析を透過電子顕微鏡により行いFe_3O_4の柱状構造が見られ粒界、粒間における空孔や空格子の存在が磁気抵抗効果に大きく寄与しているのではないかと予想した。 一方、現実の酸化物多層膜として、光磁気記録用Bi置換ガ-ネット多層膜の設計・製膜を行った。各層間の格子定数差による応力による垂直磁気異方性を発現するガ-ネット多層膜を提案し、その組成と層構成を設計した。ある組成のBi置換ガ-ネット膜の製膜に、BiFe酸化物、希土類と鉄の酸化物、の2元ターゲットにより交互スパッタし、それぞれのスパッタ時間の調整により所望の組成の膜が得られる条件を、各ターゲットからのスパッタ率を求めることより実現した。各層間の格子定数差による応力を利用し、逆磁気歪み効果から垂直磁気異方性を大きくする膜の設計と多層膜の作製を試みた。この多層膜は熱処理により結晶化したが、層間の拡散が大きく格子定数の差が層間で作用しなかったため垂直磁化膜とはならなかった。今後更に層間の拡散を抑制する作製条件の探索が必要である。
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