クラスターイオン・ビームと固体の相互作用の研究は原子あたりのエネルギーが数eVという低エネルギーにあってはクラスターイオン・ビーム蒸着、原子あたりのエネルギーが数keVという高エネルギーにあってはそのスパッタリング現象を利用した精密加工、高温高密度を利用した新物質合成等とこの数年重要なテーマとして脚光を浴びている。科研費の補助により開発してきた時間発展的に2体間衝突近似の範囲でイオンを追跡する計算機シミュレーション・コードは分子動力学法に劣らず有力で計算時間が圧倒的に少なくて済む利点があることが判明した。 その応用のひとつとして、半導体工学で確立しているイオン・インプランテーションに代わるクラスター・インプランテーションの可能性を計算機シミュレーションを通して研究することを最終目標にしている。本年度はとくに高速イオンインプランテーションのプログラムの開発に研究の重点をおき、その成果は93年度秋の応物学会で発表した。今、現在は高速重イオンのインプランテーションを評価できるプログラムを開発中である。また、2体間衝突近似に基づく時間発展的に固体内原子衝突を追跡するDYACATコードを基礎にした任意の結晶系にたいしてクラスター・ビーム照射をシミュレイトできるコード(DYACOCT)をPKAによる放射線損傷のシミュレーションに応用し結果を93年度秋の物理学会で発表した。また、非晶系の2体間衝突近似に基づく時間発展的に固体内原子衝突を追跡するDYACATコードを用いてスパッタリングに伴うクラスター形成の機構のシミュレーションを実行し、世界で始めてスパッターされた3原子分子のエネルギースペクトルの計算に成功し、その成果は11月7日から横浜で開かれたSIMS IXで招待講演を勤めた。
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