研究概要 |
クラスターインプランテーションの研究にとって,最も重要なことはシミュレーションコードDYACAT,DYACOCTの精度を高めることにある。そのためには多くの実験のある事例を選び,シミュレーションをして結果を比較する必要がある。なぜなら,クラスターインプランテーションは未だ実験の報告例がないからである。そのひとつの例としてよく実験値の報告されている放射線損傷分野のはじきだしエネルギーをDYACOCTを用いて計算し,実験と比較した。その結果、DYACOCTはよい評価を与えることが判明した。また,クラスター照射に関する研究として、重水クラスターおよび,重イオンクラスターによるクラスター衝撃核融合のシミュレーションを実行したクラスター照射におけるクラスター効果についての計算を行なった。クラスター効果のうち加速効果については原子あたりのエネルギーが小さいほどその効果は大きいことが判明した。これは弾性散乱断面積が低速ほど大きくフェルミシャトル過程の可能性が大きいことに対応している。また,つゆはらい効果については入射粒子の質量が標的原子のそれよりも大きい場合に顕著であり,クラスターサイズが大きければより大きい効果を生むことがわかった。このことからクラスターインプランテーションにおいてはつゆはらい効果を利用するべきだから,本研究ではAsイオンをシリコン結晶にインプラーントすることを考える。最近,Armigliato等による1.06MeVAsイオンをシリコンの(100)面に照射したSIMSの深さ分布は2つのはっきりしたピークを持っていり,彼らは1.06MeVAsイオンによるランダム・ピークと(110)面チャネリング・ピークであると結論した。しかし,我々のシミュレーションで結果は,浅い方のピークはビーム系に含まれる不純物としての分子イオンのランダム・ピークであり,深い方のピークは1.06MeVAsイオンのランダム・ピークであり、(110)面チャネリング・ピークはもっと深い方にでることがわかった。クラスターインプランテーションの観点からいって,他の可能性を検討したところ,20keVAsイオンの<110>軸チャネリングのチャネリング・ピークを用いる方がよいことがわかった。
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