平成6年度では試料として、(1)不純物(ニッケルと亜鉛)を含みかつ酸素欠損量を抑制したYBa_2Cu_3O_<7-Y>(以下YBCOと略す)焼結体および※2MOCVD法で作製したYBCO薄膜を選び、系の揺らぎ伝導率による評価を行った。 まず試料タイプ(1)に対する結果について述べる。 1)殆どの試料において揺らぎ伝導率の臨界指数n=0.5となり、従って次元性は不純物置換並びに酸素欠損には依存せず、3次元伝導である。一部の試料ではn>0.5となり不均一性による低次元伝導も観測されている。 2)揺らぎの振幅C_Fは亜鉛とニッケルの不純物置換により減少する。これは酸素量を制御しない場合と定性的に同様な結果であるが、酸素欠損状態においてより顕著な減少傾向を示した。重要な点は、非磁性不純物である亜鉛が磁性的なニッケル同様Tcを減少させると同時に超伝導揺らぎを抑制することを明らかにしたことである。 次に、タイプ(2)の薄膜試料について述べる。試料の熱サイクルに伴う特性の劣化に対し、評価法として揺らぎ伝導率解析に加え、X線回折法と交流帯磁率χ測定も併用して行った。その結果次のような成果が得られている。 1)薄膜のTcは熱サイクルにより減少していく。これに対応して揺らぎ伝導率の振幅は、測定を重ねるごとにやや大きくなる傾向にあり、薄膜の劣化が揺らぎの振幅に反映されていると考えられる。 2)熱サイクルによりX線回折パターンの半値幅は増加し、χの虚数部の振幅も増加することから、これらの量に相関性があることを明らかにした。従って揺らぎ伝導率に加え、交流帯磁率解析も系の評価法として有効であることが分かる。 以上の成果から本研究の特色である「揺らぎ伝導率解析による特性評価」の手法が、不純物を含む酸化物超伝導体に加え、超伝導薄膜に対しても有効であることが実証された。
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