本研究では、酸化物超伝導体において、Tc以上での熱的な揺らぎ伝導率σ'を解析することにより、系の特性を理解することを目的に研究が進められた。まず、不純物を含むYBa_2Cu_3O_<7-y>(以下YBCOと略す)焼結体について、その抵抗率の温度変化特性から得られた揺らぎ特性σ'(T)を解析した。その結果、亜鉛とニッケルの場合は両方とも揺らぎの振幅は不純物置換により減少することを見い出し、非磁性不純物である亜鉛が磁性的なニッケル同様Tcを減少させると同時に超伝導揺らぎを抑制することを明らかにした。この効果は系の酸素欠損状態においてより顕著に観測された。このことは、従来のBCS理論から期待される不純物効果とは異なるもので、酸化物超伝導の発現機構として「負Uモデル」が有力である事を支持している。 次に、上で述べた評価方法を、MOCVD法で作製したYBCO薄膜に適用した結果について記す。試料の熱サイクルに伴う特性の劣化(Tcの減少)に対し、揺らぎ伝導率の振幅はやや大きくなる傾向にあり、薄膜の劣化が揺らぎの振幅に反映されていると考えられる。評価法としてσ'解析に加え、X線回折と交流帯磁率χの測定も併用して行った。その結果、熱サイクルによりX線回折パターンの半値幅は増加し、χの虚数部の振幅も増加することから、これらの量に相関性があることを明らかにした。従って、揺らぎ伝導率に加え、交流帯磁率解析も系の評価法として有効であることを新たに提案する。 以上の成果から「σ'解析による特性評価」の手法が、不純物を含む酸化物超伝導体および酸化物超伝導薄膜に対し有効であることが実証された。本研究の結果から、σ'解析に加え交流帯磁率の解析も系の特性評価に重要な知見を与えるものと期待できるので、今後その見地から更に研究を進めていきたい。
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