研究概要 |
本研究では,量子効果現象を利用する半導体超格子に対する複素等価回路を用いて,電気回路的に新物質設計を論ずるものであり,次の研究を平成7年度に行った. (1) ヘテロ界面などに対する虚数抵抗を用いた新しい複素等価回路の研究として、δ形ポテンシャルを含む1次元ポテンシャル中の電子波の振る舞いについて分布定数回路との類似性を利用して解析を行うと共に、それを利用した透過特性の合成について考察している。また、最近注目されているGaSb、InAs、AlSbなどを用いたRIT(Resonant Interband Tunneling)構造での波動現象を記述するKaneが示した2バンドモデルを回路論的に考察し、その等価回路を求めている。 (2) 共鳴トンネル準位の合成の研究として、共鳴トンネルダイオードを高性能化するために、フェルミエネルギーより低いコンダクション帯にのみ共鳴トンネル準位を作りその他の共鳴トンネル準位は消し去るには、深い井戸の利用が有効なことを示している。 (3) 量子現象の波動を表す式はシュレディンガー波動方程式のみではなく、それを拡張したと考えられるディラック作用素もある。したがって、電信方程式とディラック作用素との違いを明らかにするために、ディラック作用素を満足する複素等価回路を求め、二つの複素等価回路の性質からディラック作用素を満足する波動の性質を明らかにすることが重要であろう。また、ディジタル信号処理の線形予測や推定問題ではティプリッツ行列やハンケル行列を効率良く解くアルゴリズムが重要であり、それらの行列が等長分布定数回路の合成問題として解くことができる。 本研究では、そのような等長分布定数回路の拡張にもディラック作用素が関係することを明らかにし、ディラック作用素を満足する波動の性質を明らかにすることが、如何に重要かを述べ、その基体的性質の二、三を示している。
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