本研究は計算機と通信機が融合した情報システムを情報エンジンとみなし、その総合的な解析と構成のための基礎理論と応用手法の確立を目標としたものである。「熱エンジン」に対する「熱物理学」の研究を参照しつつ、前年度までにShannonとTuringの基礎理論に基づいた情報エンジン理論を研究してきた。本年度はその研究期間の最終年度にあたり、今までの研究の仕上げとしてやや不完全であった基礎理論の補強を中心として研究した。また具体的な情報ネットワーク構成問題として応答時間最適化を検討し有用な結果を得た。まづ基礎理論の精密化として論理仕事を情報記号のアンサンブルに関する平均量として定義し、その下限値を情報ポテンシャルと定義した。これは古典情報理論において情報信号アンサンブルの各記号の符号長のアンサンブル平均の下限値をエントロピーと定義したことに対応している。さらに情報ポテンシャルとエントロピーの比によって情報活性度を定義した。熱エンジンに対応して情報エンジンの論理過程に等エントロピー過程・可逆過程・等情報活性度過程を導入し、一般の論理過程を等エントロピー過程と等情報活性度過程の結合によって表し、エントロピー/情報活性度線図(H-T線図)によって表現する手法を提案した。情報の分類演算、通信路符号器と誤りのある通信路を経由する情報の伝達、暗号化および解読演算などの動作はH-T線図によって解析される。 さらに情報エンジンが多数結合した情報ネットワークに情報エントロピーと情報活性度の2元量の分布を考えることによって、ネットワークに電流と電圧の2元量を分布させた電気回路理論の成果を活用できることから、複雑な情報ネットワークは電気回路網理論問題として解析する手法を研究した。本研究は複雑な情報ネットワークを統一理論によって総合的に解析する萌芽的研究として開始し、一応の成果を得た。
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