本年度は、超音波ドップラー効果を用いた胎児呼吸様運動の計測系に関する研究の最終年度にあたる。この計測系は、主に母体内胎児の呼吸中枢神経系の発達や異常を定量的に計測できる手法を研究することを目的としており、従来用いられてきた胎児の心拍数モニタリングに関するものに比べ、1)胎児の呼吸中枢の発達や異常のモニタリング以外に、呼吸中枢神経系に関連する各種モニタリングには向く、2)ノンレム睡眠、レム睡眠の繰り返しである胎児の睡眠リズムより十分長い、たとえば1時間程度の連続記録が可能であり、胎児のwell-beingを評価できる、3)胎児の胎動を生体内の微小な変位信号として高精度に、かつ定量的に計測することができる、などの特徴をもつ。ここで計測しようとしている胎児呼吸様運動は、胎児が母体内で呼吸中枢の指令により、横隔膜をリズミカルに運動させものであるが、本計測系では、この運動を母体外から超音波を用いて非侵襲的に計測しようとする。本年度の主な成果は、1)計測原理にもとづいて、臨床で評価できる計測系を試作した。この系は、新たに開発したディジタル方式の直交検波器を超音波信号の採集部に使っているため、1)超音波が通りにくい肥満した妊婦でも、胎児の胎動を精度良く計測できる。2)従来のアナログ方式で問題であったドリフトや信号処理系の精度の低下を避けられる、という特徴がある。さらに本年度は、高度な信号処理として、適応的信号処理による胎児胎動計測法を研究、開発し、この方法の有効性も確認することができた。臨床での評価が行えるプロトタイプ装置は、実際に東京大学医学部附属病院産婦人科、東京都立築地産院産婦人科等において試験を開始している。すでに数十例の測定を行ったが、胎児呼吸様運動を定量的に計測できる新しい装置として、臨床の場で高い評価を得ている。本手法は、定量性、計測精度、臨床での使いやすさなど、従来の方法にない多くの特徴を持っており、本研究の成果は、将来、母体内胎児の定量診断と疾病の早期発見に大きな貢献をなすもの期待している。
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