コンクリート構造物を設計するにあたっては、本来、設計、施行、維持管理、補修、補強、取り換えを考慮にいれて行う必要がある。補修の難易度は、構造物の新設時における設計での安全係数を大きく左右する。しかし、コンクリート構造物の補修設計に関する研究は、新設設計に関するものと較べてきわめて少なく、特にアルカリ骨材反応による損傷に対する補修設計については、まだ試行錯誤的要素が強く、体系だった研究はなされていないのが現状である。本研究は、まだ検討例の少ない、アルカリ骨材反応による損傷を受けた構造物の補修設計を行ううえでの基本的な研究を行ったものである。補修材料としては種々の合成高分子材料を用い、補修工法としては表面処理をとりあげ、アルカリ骨材膨張メカニズムからこれらの仕様に要求される性能について検討した後、補修設計のフローを明らかにした。 アルカリ骨材反応による損傷を受けたコンクリート構造物を補修するについては、ひびわれに起因する鉄筋腐食を防止すること、美観を回復させること、およびそれ以後のアルカリ骨材膨張を抑制することがその主要目的となる。ひびわれ補修としてしばしば用いられる樹脂注入は、鉄筋腐食の抑制には効果を示しても、他の暴露面からの水分の提供によってアルカリ骨材膨張が進行する可能性が高く、本質的な補修方法ではないと考えられ、表面処理が必要とされる。アルカリ骨材反応の結果生じる膨張には水分の供給が不可欠であると考えられることから、水分の抑制の観点から透水性と透湿性の定量化を通じて種々の表面処理仕様を検討し、アルカリ骨材膨張の抑制機構を明らかにするとともに、補修材料に必要とされるひびわれ追従性と併せて総合的に補修仕様を検討した。また、わが国における環境条件を考慮した促進乾湿作用を与えて、現実の構造物に対する適用性を明確にすることを試みた。
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