本研究は、走行車両による橋の振動がかなり疲労損傷に関係する要因であると言われながら、これまでの研究の多くはその影響を無視していること、さらに、寿命予測において、鋼材など構造材料の疲労寿命に内在する極めて大きなばらつきの問題が意外におろそかにされていることに加え、静的設計については構造信頼性理論の考え方を取り入れた新たな設計法(限界状態設計法)が徐々に定着しつつあるにも拘わらず、動的設計や耐疲労設計については同様の視点からの研究が極めて乏しい現状を考えて、交通荷重に対する鋼道路橋の疲労損傷評価システムを構築するための基礎的研究として行われた。 まず、走行車両による橋の振動問題に関しては、床版を長方形要素、主桁、対傾構および壁高欄を梁要素でモデル化し、走行車両を8自由度系の3次元モデルによってモデル化した車両の橋梁の3次元連成振動解析法によって、主桁あるいは床版に関し、現地実験の結果とかなり良好に一致する応答量を算定できることが分かった。 次に、鋼材の疲労寿命に内在する極めて大きなばらつきが走行車両による橋の疲労寿命に及ぼす影響の問題については、ランダムな繰り返し応力による材料の疲労寿命予測法として定評のあるマイナ-法に疲労寿命のばらつきを取り入れて、疲労損傷の評価を確率論的に行うための方法を提示し、数値解析例によってその有用性を示した。すなわち、本解析システムによれば、S-N曲線における疲労寿命のばらつきを考慮して、走行荷重による鋼道路橋の疲労損傷確率を比較的簡便に算定することができる。この成果は、今後、橋梁の信頼性や経済性を総合的に評価する場合に有効に活用できるものと考えている。 ただし、本研究では橋の振動が疲労損傷に与える影響を詳しく検討するまでには至らなかった。今後、ふたつの解析プログラムをまとめてパラメトリック解析を行い、その結果を耐疲労設計法に反映させるための基礎資料を整える必要がある。また、かなりの費用と時間を要するが、疲労実験によって、ここで示した疲労損傷確率の算定法の精度についても慎重に検討しなければならない。
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