鉄筋コンクリートプレキャスト構造において、重ね継ぎ手は非常に効果的な主筋の継手方法であるが、コンクリートの付着性能に頼る方法であるために、施工の良否の影響を受け易く、現在のところ積極的な利用がなされていない。プレキャスト部材においては、施工管理は十分に行なうことができるので、重ね継手の施工上の有用点を十分に生かした設計ができるものと考えられるにもかかわらず、終局強度型靭性設計に必要な、重ね継手の終局強度や変形能力に関する実験資料はほとんどないのが現状である。 本研究は、鉄筋コンクリートラーメン構造の靭性部材に重ね継手を用いることを目的とし、プレキャスト化しやすい太径の鉄筋の重ね継手の終局強度と、鉄筋の降伏強度に対する安全率や変形能力との関係を明らかにしようとするものである。実験の変動因子は、主筋径、継手長さ、横補強筋量、鉄筋末端(フック)の形状とした。また、外殻プレキャスト梁も想定して、継手鉄筋間にコンクリートの打ち継ぎを設けた試験体も実験した。実際の梁断面を想定した非対称の配筋をした梁で行なうが、重ね継手にとっては両引き試験が最も不利な応力状態と考えられるので、応力状態は両引き試験で行なった。 実験の結果次のことが明らかとなった。 1) コンクリート打ち継ぎ面の平均せん断応力度は、フックのない場合で25〜28kgf/cm^2であった。フックのある場合は、打ち継ぎ面では滑らなかった。 2) フックのない場合、重ね長さが30d(dは主筋径)あれば、塑性率3以上確保できた。 3) 90°フック付きの場合、余長8dで重ね長さ20dあれば、塑性率3以上確保できた。 4) フックのない試験体は、破壊後の耐力低下が著しいが、フック付きの場合は、フックの定着により、付着破壊後もある程度の耐力は保持できていた。
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