平成6年度は、ストリートキャニオンにおける建物、地表面、及び植生の全表面の表面温度分布を、数値シミュレーションにより算出するアルゴリズムを作成し、都市域の気温形成の主要因である全地表面からの顕熱を予測する手法の構築を行った。 1)都市域の幹線道路の表面温度分布に注目し、道路交通による路面の温度分布の実態調査を踏まえて路面の熱収支モデルを作成した。まず、路面温度と車両の走行状態との関係を熱画像を用いて定量的に把握した。これを踏まえ、気象条件及び車両の走行状態をパラメータとした路面の熱収支モデルを作成し、数値計算結果と熱画像を比較することにより、本モデルを検証した。 2)蒸発散が活発な樹冠の表面温度を、GISデータと気象要素を用いて簡易に予測するための基礎的検討を行った。既往の植生の熱水分収支モデルを都市気候の予測に適用することは困難であることから、緑被分布図、気象要素、及び正規化植生指標(NVI)分布図を用いて樹冠の表面温度を予測するシステムを開発した。また、航空機MSSデータを用い、ひとまとまりの面積ごとに、樹冠の放射温度分布とNVIとの関係の実態を把握した。さらに、ひとまとまりの樹冠面積と境界からの距離の観点から、樹冠の放射温度と樹冠への入射日射量との関係を分析し、樹冠の表面温度を推定するための基礎的な知見を得た。 3)全地表面からの顕熱を予測する上で、受熱日射量及び周辺地物との放射授受の項を1mメッシュごとに計算する手法を開発した。放射授受の項については、周辺地物を気温に等しいとみなして第一次の熱収支計算を行い、得られた表面温度分布を用いて放射項を見積もり、再度熱収支計算を行うアルゴリズムを開発した。また、GISデータを用いた実際の地区の熱収支計算を行い、時系列の熱画像を作成し、航空機MSS熱画像とよく一致することを確認した。以上により、本シミュレーション手法が地区の顕熱を予測する上で有効であることを検証した。
|