本研究は、ストリートキャニオンの熱環境を規定する要因として、道路及びキャニオンに面する建物の全表面の表面温度分布に注目し、1)全表面の表面温度分布を用いてストリートキャニオンの熱環境を評価するための指標の提案、及び、2)GISデータ及び気象要素を用いて表面温度分布を予測する手法の開発、の2つを大きな目的としている。 まず、都市の空間形態と材料の熱物性を考慮して、都市の熱的特性を表現する指標として、ある地区の表面温度と気温との温度差を累積し、その地区の水平面投影面積で除した値を「顕熱によるヒートアイランドポテンシャル(HIP)」と定義した。さらに、HIPを求めるための地区のメッシュ分割のスケールとしては、GISによる空間形態と材料の再現性、及び受熱日射量の観点から、lmが要求されることを明らかにした。 次に、地区のHIPを予測するために必要となる、ストリートキャニオン内の全地表面における熱収支シミュレーションにより表面温度分布を予測する手法の開発について検討した。従来困難と考えらていた周辺地物との長波長放射授受の計算方法としては、 (1)周辺地物を気温と等しいと仮定して各質点における第一次熱収支シミュレーションを行い、表面温度の近似値の分布を求める。 (2)得られた結果をもとに周辺地物からの長波長放射量を求め、再度全質点の熱収支シミュレーションを行う。 (3)以上をくり返して、都市の全地表面の表面温度分布の計算結果を収束させる。 GISデータを用いて実際の地区における熱収支計算を行い、都市の時系列の熱画像を作成した。シミュレーション結果と、航空機MSSによる表面放射温度分布とを比較検討することにより、本シミュレーション手法の妥当性を示した。
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