研究目的:開港場として諸外国の文化導入の窓口となったわが国近代の歴史的地区において、社会的、文化的に形成された地域固有の色を明らかにし、そのことを通じて町並み色彩の意味や計画の考え方の再定立をめざす。研究方法:函館市西部地区と神戸市北野・山本地区の2地区をとりあげ、戦前期洋風木造建物の外壁下見板などに塗り重ねられ、層をなすペンキ色彩のこすり出しによるサンプル採集・分析、CGシミュレーションによる復元的分析等にもとづき、町並み色彩の変容過程を比較考察する。成果:1.こすり出しによって様々の色からなる同心円状のペンキ層を発掘した。これを「時層色環」という新しい概念で提示し、地層のように各層が示すそれぞれの時代、環境、個人の様相を意味するものとして定義した。2.ペンキによる町並み色彩は時代によって変化する。現状に比べて過去の色彩は多様であり、意外性をもち、全く異なる色の世界が形成されていた。3.色彩変化の背景には、戦争などの大きな時代の流れと、建物所有者の変化などの地域コミュニティレベルの色彩形成のしくみの変化の2つの力が働いている。4.従来の町並み色彩計画の考え方として、周囲となるべく目だたず無難な色を基本とし、基準を設けて統一的な色彩に規制するのをよしとする傾向がある。そのモデルに近世の伝統的な町並みがある。しかし、近代のペンキによる町並み色彩では、多様、変化という全く異なる方法で魅力的な町並みを形成することが可能なことを示唆している。5.豊かな、魅力ある町並み色彩を形成するには、地域コミュニティレベルで創造的な色彩形成のソフトなしくみを環境-時代-人-色の応答関係の中でどうつくるかが課題である。6.町並み色彩とは「環境と時代における個人の自己表現と集団の共有の価値の表現」を示すものであり、住民が主体的に町並みづくりに係わることのできる重要な役割をになう可能性をもっている。
|