都市計画的な景観保全制度について、まずは先進事例をもって基礎資料として定着させるために、米国サンフランシスコ市における景観保全政策の全容について調査・整理を行った。その結果、法的に価値を示された各要素の保全のために「開発規制型・開発選択型・開発活用型」の3種に分類できる14の制度が、異なる取り組み方でかつ重複して開発への圧力に対処する構造を持つことが明らかとなった。これを受けて本報では、特に日本の場合に運用面で問題の多い「開発活用型」、つまり「容積移転」や「容積割増」といった空中権活用によって開発と景観保全とを誘導的に両立させるタイプの制度について、米国との比較を通じて再検証することを以降の課題とした。 このため「容積移転」を活用した誘導的な景観保全制度としては、市の「TDR制度」を取り上げ、目的と内容・許可条件・認可プロセスの調査を行った。対応可能な日本の制度としては「特定街区の容積移転制度」と「地区計画の容積適正配分制度」を取り上げ、構造面での比較を行った。その際日米の不動産概念の違いを視点に導入した結果、絶対的な土地所有の概念が制度の運用を根本で制限する一因となっていることが明らかとなり、今後の制度改善の方向を示唆することができた。 一方の「容積割増」を活用した誘導的な景観保全制度については、「インセンティブ・ゾーニング制度」に対して「総合設計制度」を取り上げ、制度の構造面で比較を行った。この際に日本の制度が運用面ではより慎重で系統的な構造を持つことが明らかとなったため、実質的な効果を検証すべく、大阪市中心部の公開空地50例について現況調査を行い、都市環境への貢献度を利用者の視点から評価を行った。その結果、多くの事例が運用基準の一律性と日本の土地概念の問題ゆえに、実質的な公開性に問題を抱えていることが明らかとなり、今後の制度改善の方向を示唆することができた。
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