研究概要 |
今年度は対馬の集落を対象に類型的分析を行った。方法は先行して行われた砺波平野の場合と共通である。 対馬では,海岸線に沿って点在するわずかな谷地を拠り所に村落が成立している。したがって、多くの村落は一方を海,三方を山に囲まれた孤立的な領域を構成している。そのなかから旧来の空間形態を残す西北海岸部の5村落を抽出し、実測調査を行った。さらに,これに資料分析を加え,村落空間構成のモデル化を試みた。その結果,村落域(浜,耕地,川,山林などを含めた村落の全域)に関しては、浜に隣接して居住地を構成し、その上方に耕地を持つという共通した土地利用の基本構成が確認される一方,居住域(屋敷の分布する範囲)については,5村落それぞれに独自性がみられ,屋敷の配列形式については多様なパターンが抽出された。 この結果を砺波平野の場合と比較すると,両地区の共通原理と多様性のあり方に大きな差異があることがわかる。砺波においては立地に応じた明快な類型化が可能であり,同じ類型に属する村落間では構成上の差異がほとんど認められなかった。このような両地区の差異は,地形的条件以上に,成立経緯など人的営みにより強く起因すると考えられる。 また,本研究の目的のひとつである,村落調査の方法の確立についてもある程度の成果が得られたと考える。すなわち,屋敷・居住域・村落域といった異なるスケールの環境単位で村落を捉えること,その採取の仕方,類型化等の一連の方法は,砺波と対馬でともに有効であったといえる。
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