研究概要 |
本研究は,「集落」を題材として,住宅から村落全体に至るさまざまなレベルで空間構成を捉え,類型的視点からこれを検討するとともに,それを通じて汎用的な集落調査の手法を確立することを目的としている。具体的には,対象として対馬の集落を選定し,全集落を対象とした類型的分析と,その中から抽出した典型事例の現地調査にもとづくケース・スタディとをおこなった。 類型化の指標として地形的要因と社会的要因とを取り上げた。地理的要因にもとづく分析では,その立地特性を大きくは3つのタイプに分類することができたが,必ずしもこの指標によって集落形態を十分に説明しえなかった。むしろ社会的要因のほうが,類型化による分析において,より有効性を発揮したといえる。これは,とりもなおさず集落空間が社会的存在であることを物語っている。集落の戸数変動の分析から,近代になって集落戸数の大幅に増大した集落と,近世以降安定的に推移した集落とがあり,それらは集落の生業と明らかな相関がみられた。そこで,対馬の集落の社会変動をモデル化して,それにもとづく類型化を試み,それぞれのタイプの集落形態を検討した結果,この類型が集落形態を説明する上で有効な指標となることがわかった。つまり,対馬の場合,中近世から現代にいたる社会変化が集落構成の多様性となって顕れているのである。同時にこのような成果は,集落の個別的検討のみでは得ることのできないものであり,類型的分析を採用することによってはじめて可能となったといえる。 一方でこの研究は,集落に関する成果を広く蓄積して学術的成果につなげることも長期的には意図しており,その試みとして成果報告書の資料編に集落データをまとめた。
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